作家インタビュー第1回 仙田 学(作家)3

3、インプット←→アウトプット

──小説を読むときには、どういうところに留意していますか。

その人にしか書けないものが書けているかどうか、です。なんというか、雑なものが入っていない、純粋な雰囲気みたいなものが気になります。

──雑なもの、ですか。

文体のことなんですね。もちろん文体は内容に直結しています。そこに雑なものが入ってくると、作品がちょっと弱くなる。たとえば古井由吉[*1]の作品を初めて読んだときは衝撃でした。文芸誌だったんですが、他のページとぜんぜん違って輝いて見えるというか、なんやろこの日本語、みたいな。

──独特ですものね。

そうですね。文体って、かなり意図的でないと成り立たない。古井由吉に影響されてそのまま書いたら、古井由吉になってしまう。必ず何らかの影響を受けてしまう。プルーストが、影響を受けた作家の文体を無意識に模倣してしまわないために、あえて文体模写に励んだというエピソードがありますが、好きなものを真似することで結果的に似なくなっていくこともあると思うんです。

村上春樹[*2]の文章は、三行読んだだけで村上春樹なんですね。

──なるほど。

あれぐらいの純粋さがないと、ぜったいダメだと思います。

──確かにそうですね。しかし、みんなが村上春樹に似かよっていくという流れがあり、賞を受けたりもします。その違いはどこで見分ければいいのでしょうか。

それは本物の良い小説をたくさん読むことで、選球眼を養っていくしかないでしょうね。賞とかはあんまり当てにしなくていいと思います。

──それは同感です。

でも賞は欲しいですけどね。
誕生日プレゼントに、芥川賞が欲しいです。

──もらえたらいいですね……。書くのをやめようと思ったことはないんですか?

途中でやめようと思ったこともありますが、ずっと追究していたら本も出せたし、今も小説と付き合っていられる。これは単純に僕の性格がしつこいから。あっさりした人だったらやめていたでしょう。一年ほど掛けて書いた小説がボツになったり、何回も書き直ししたあげく不掲載になったり、かなり心折れますよね。それでもやめない、しつこい性格。

──その性格がモノづくりに向いているのでしょうね。

いや、書かないとおかしくなるんです、単純に。精神的に破たんするとか、何か犯罪を犯してしまいそうとか……。以前は書くことへの怖さでしたが、今は書かないことへの恐怖です。

──今後マンガや映画などにシフトしていくことはありますか。

そういえばこの間オーディションに行ったんです、映画の。

──映画のオーディションなどには、よく行かれるんですか。

初めてだったんですけど、楽しかったからまた行こうと思ってます。

──結果はどうでしたか。

ダメでした!

──ご自身で映画をつくることも今後、考えられますか。

いまのところ予定はないですが、自分の小説が映画化されたらなとはいつも思います。もともと映画が好きだったので、映像化して楽しめるようなものを、と書きながら念頭に置いてはいます。

『文藝』掲載の「愛と愛と愛」[*3]は、ぜひ読んでほしい。この小説は、2013年に起きた三鷹ストーカー殺人事件に衝撃を受け書き始めました。

【校註】

  1. 古井 由吉(ふるい よしきち、1937年11月19日―)は、日本の小説家、ドイツ文学者。いわゆる「内向の世代」の代表的作家と言われている。代表作は『杳子』、『聖』『栖』『親』の三部作、『槿』、『仮往生伝試文』、『白髪の唄』など。精神の深部に分け入る描写に特徴があり、特に既成の日本語文脈を破る独自な文体を試みている。
  2. 村上春樹(むらかみ はるき、1949年1月12日―)は、日本の小説家、アメリカ文学翻訳家。1979年、『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。1987年発表の『ノルウェイの森』は2009年時点で単行本・文庫本などを含めた日本における発行部数上下巻1000万部を売るベストセラーとなり、村上春樹ブームが起きる。その他の主な作品に『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』』など。翻訳も多数刊行。日本国外での人気も高く、2006年、フランツ・カフカ賞をアジア圏で初めて受賞。以後日本の作家の中でノーベル文学賞の最有力候補と見なされている。
  3. 「愛と愛と愛」は『文藝2016年秋号』に掲載されている。

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